「こちらポイントF、標的[ターゲット]出現ッ !!」
シーバーのスイッチを入れそけだけ叫ぶと、南は短刀を手にし、構えた。
「せいっ !!」
ダッシュで駆け寄り、標的を空間ごと切り上げる。
重くかかる手ごたえ。
素早くひるがえり、距離をとる。
揺らぐ、その姿。
「封印をッ !!」
南の声に応え、芦澤が標的の傍に寄る。 その手には大きな水晶の塊[かたまり]が握[にぎ]られていた。
「…ぇのっ !!」
かけ声と共に握ったままの手を標的の中心部に突っ込む。
芦澤の手の中で水晶は熱を帯び、それに呼応するように標的の姿が薄れていく。
「これでどうだっ !?」
南はさらにその姿に切りつけた。途端、さらりと崩[くず]れる姿。
首なし男の姿が消えると同時に、廊下の電気が点った。
仕上げとばかりに芦澤が水晶にぺたりと札[ふだ]を貼る。 それを見て、南はシーバーのスイッチを入れた。
「こちらポイントF。標的[ターゲット]封印完了。どうぞ」
『了解。ポイントFは撤収を。その他はポイントCに応援に向かって下さい。どうぞ』
「ポイントC?」
シーバーから流れる情報に首を傾[かし]げる。
交戦中に何かあったのだろうか。
「こちらグループ芦澤。柚香、ポイントCで何があったの? どうぞ」
『…ポイントCにて未確認意識体が出現した模様。グループ相馬、交戦中です。どうぞ』
「なッ !? 別モノ !? 芦澤、ここ片してとっとと行くわよっ !!」
「無論だ」
手早く道具をまとめて移動する。
階段を上がり、廊下を曲がる。
それと同時に消えていた蛍光灯が一斉についた。
「封印完了ですわ」
姫木の声が廊下に響く。その手には札[ふだ]の貼られた封印具があった。
柚香を除くメンバー全員が集まっていて、ほぅ、と力を抜いていた。
「終わったみたいね」
「あ、部長」
「別モノが出たんだって?」
「はい、今封印したところです」
「…また派手にやったわねぇ」
廊下の窓ガラスが数枚、粉々に割れていた。
床に散らばる札や道具。こちらの戦闘よりもすさまじかったのだろう。
「姫木は『札使い』だな」
寺元がひとりごとのように告げる。
「1年の中で1番勇ましいんじゃないか?」
苦笑して言うのは同じ学年の渡瀬 隆馬[わたせ りゅうま]だ。
「へぇ? そんなにすごかったんだ?」
「おう。見れなくて残念だったな。今回は、ほぼあの三人の手柄だぁな」
「珍しいわね、渡瀬やんがそこまで褒めるなんて。三人とも、ご苦労様」
にっこり言うと、1年の三人は照れた様子を見せた。それを隠そうとか、 相馬 拓人[そうま たくと]が問いかける。
「部長の方は、どうだったんですか?」
「ん? そりゃもう、ばっちりよv ね?」
振ると、芦澤が例の水晶を取り出した。
澄んでいた鉱石は、意識体を閉じ込めたためか、白濁[はくだく]していた。
「にしても、コレ、去年の合宿で鉱山行って採[と]ってきたヤツでしょう? また思い切って使ったわよね」
「まぁ…な。使わないと宝の持ち腐れだろ?」
「…それもそうね。さ、とっととココ片づけて帰りましょ。1年の子たちが頑張ってくれたから、 ファミレス寄って祝杯上げなきゃね?」
部員を見回して告げると、途端[とたん]に歓声が上がった。
「んじゃ、片づけと浄化層に向かうのと掃除とに分かれて」
『おう』
『はい』
『了解』
「柚香にも連絡しといてね」
テキパキと指示を出す南には、芦澤がぼそりともらした呟[つぶや]きが届くことはなかった。
「まぁ、思い出の品だけど、東都を傷つけたヤツだしな?」
The End.