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「どーしようかな」
様子見のつもりだったから、武器らしい武器は持って来ていない。
「えーっと、<遮断者>に遭[あ]った人は…」
部長になる際に読まされた膨大な資料の記憶を探る。
「<遮断者>、<遮断者>…。確か、少なくない割合で精神異常が認められ……って、え?」
背中に寒いものがはしる。
「精神異常なんて冗談じゃないわよ。早く何とかしなきゃ」
焦るものの、良い案は思い浮かばない。
周りを満たすのは暗闇。音のしない空間。
「こんな所に長時間閉じ込められてりゃ、そりゃあオカシくもなるわね。でも、 本当にどうしようかな」
そう呟[つぶや]いた瞬間、目の端で何かが光った。
「 !?」
光はまたたく間に大きくなり、あまりの眩[まぶ]しさに南は目をつむった。
「っしゃ、封印成功」
馴染[なじ]みの声が聞こえて目を開けると、闇は消え、放送室の内部が映っていた。
「大丈夫か?」
声をかけられ振り返れば、そこには悪霊退治部[ゴーストバスターズ・クラブ]副部長の芦澤 透[あしざわ とおる]の姿があった。その手に握られているのは、対悪霊用武器のひとつ。相手の封印に使うもの。
「芦澤?」
「<遮断者>が出たらしいって聞いてな。部室まで行って来たんだ」
荒く息をつく芦澤は、全力疾走[ぜんりょくしっそう]でもしたのか汗をだくだくと流している。
「…ありがと。助かったわ」
礼を言うと、芦澤は得意げな笑みを返した。
「部長」
「ぅえっ !?」
呼びかけられて向くと、相馬が側に来ていた。
「うわびっくりした。…大丈夫だった? 相馬」
「はい。けど、何だったんですか? 今の」
「ああ。<遮断者>よ」
「シャダンシャ?」
「<遮断者>は<遮[さえぎ]るもの>よ。滅多に出なくて今まで対処できてなかったんだけど、 今回封印できて運が良かったわね。ヤツに遭遇[そうぐう]した人の中には、 精神的にヤバくなった人もいたみたいだけど…」
言って、放送室をのぞき込む。呆然としている放送部員らしき生徒が4人。
そのうち一人が立ち上がり、こちらへと向かってきた。
「あの…?」
「あ、悪霊退治部です。<遮断者>は封じましたんで、もう大丈夫ですよ。あ、報告書作成に、 アンケートの協力お願いしますね」
放送部員にそう告げると、南は二人に向き直った。
「あたしはソレ納めてくるから、芦澤と相馬は書類の方お願いね。お昼食べてる途中だったから、 ちゃんと食べたいの。よろしくね」
「はい。賀田[かだ]先輩にチェックしてもらった方がいいですか?」
「あ、そうね。柚香[ゆうか]にチェック入れてもらって」
「俺も途中っちゃ、途中なんだが」
「…芦澤。んじゃあ『もう一走り』浄化層[じょうかそう]まで行って来る?」
南の一見天使のような笑みに、芦澤は顔を青くして首を振った。
浄化層は鎮めの結界が張られていて、校内のいちばんすみにあるのだ。走っても片道5分はかかる。
「それじゃ、よろしく。また放課後にね」
ひらひらと手を振って、南は浄化層へと向かった。