「複支路」へ戻る→*
「今、何も持ってないのよね。…大人しく芦澤が来るのを待つしかないか」
助けが来る、というのがわかっているだけマシというものだ。
「えーっと、<遮断者>に遭[あ]った人は…」
部長になる際に読まされた膨大な資料の記憶を探る。
「<遮断者>、<遮断者>…。確か、少なくない割合で精神異常が認められ……って、え?」
背中に寒いものがはしる。
「精神異常なんて冗談じゃないわよ。早く来なさいよね芦澤ッ」
焦るものの、どうにもできない。
周りを満たすのは暗闇。音のしない空間。
「こんな所に長時間閉じ込められてりゃ、そりゃあオカシくもなるわね」
そう呟[つぶや]いた瞬間、目の端で何かが光った。
「 !?」
光はまたたく間に大きくなり、あまりの眩[まぶ]しさに南は目をつむった。
「っしゃ、封印成功」
馴染[なじ]みの声が聞こえて目を開けると、取り巻いていた闇は消え、 いつもと変わらない廊下があった。
「東都、<遮断者>だってわかってたんだから、突っ込んでくなよな」
振り返ると、手に対悪霊用武器を持った芦澤が立っていた。
「ちょっ、あたしがやったんじゃなくて、声かける前に相馬がっ…」
「相馬?」
芦澤の怪訝[けげん]な呼びかけに、南もくるりと振り返った。
「何、だったんですか? 今の」
「ああ、お前初めてだったっけ。<遮断者>だよアレは」
呆然として問う相馬に芦澤が答えた。
「シャダンシャ?」
「<遮断者>は<遮[さえぎ]るもの>よ。滅多に出なくて今まで対処できてなかったんだけど、 今回封印できて運が良かったわね。ヤツに遭遇[そうぐう]した人の中には、 精神的にヤバくなった人もいたみたいだけど…」
言って、放送室をのぞき込む。呆然としている放送部員らしき生徒が4人。
そのうち一人が立ち上がり、こちらへと向かってきた。
「あの…?」
「あ、悪霊退治部です。<遮断者>は封じましたんで、もう大丈夫ですよ。あ、報告書作成に、 アンケートの協力お願いしますね」
放送部員にそう告げると、南は二人に向き直った。
「あたしはソレ納めてくるから、芦澤と相馬は書類の方お願いね。お昼食べてる途中だったから、 ちゃんと食べたいの。よろしくね」
「はい。賀田[かだ]先輩にチェックしてもらった方がいいですか?」
「あ、そうね。柚香[ゆうか]にチェック入れてもらって」
「俺も途中っちゃ、途中なんだが」
「…芦澤。んじゃあ『もう一走り』浄化層[じょうかそう]まで行って来る?」
南の一見天使のような笑みに、芦澤は顔を青くして首を振った。
浄化層は鎮めの結界が張られていて、校内のいちばんすみにあるのだ。走っても片道5分はかかる。
「それじゃ、よろしく。また放課後にね」
ひらひらと手を振って、南は浄化層へと向かった。