「あ、電気消さなきゃね」
 気づいてスイッチの前へと足を運ぶ。
 しかし、それに手が触れる直前、バチリと大きな音がして、部屋の電気が消えた。
「何 !?」
 くるりと振り向くと、窓の側に人影がゆらりと映っていた。
「ちょっと何よ。ここに特定のヤツっていなかったはずよ?」
 内心冷や汗を流しながら対峙[たいじ]する。
 手には提出するはずの書類のみ。対悪霊用の道具は今、手元にない。
(…出なきゃね)
 逃げ出すタイミングを計ろうとしたその時、視界の端で何かが動いた。目をやると、参考書が数冊、 ふわりと浮き上がっている。
(ひょっとして社会科学習室で出たヤツって…)
「ここか !?」
 嫌な予感が横切った瞬間、ドアが勢い良く開かれた。
「…芦澤?」
「東都? どうしてここに?」
 現れたのは、社会科学習室に調査に行ったはずのメンバーだった。
「芦澤、奥だ」
 寺元の鋭[するど]い声に芦澤は奥を睨[にら]む。
 変わらずにある、人影。浮かぶ、厚い本たち。
 芦澤はポケットから小石を取り出すと、それに向かっておもむろに投げた。
 バシッという音と共に、何もないはずのそこから弾[はじ]かれる小石。
「石でできるレベルじゃないか」
 焦[あせ]りの見える声。
「先輩、下がって下さい !!」
 後ろから飛び込んできた姫木の声に、南と芦澤は部屋の隅[すみ]へと寄った。
「せいっ」
 かけ声と共に投げられたのは数枚の札[ふだ]。
 それらが影に当たった途端、クラッカーを鳴らしたような派手[はで]な音が鳴り響いた。
 音が収まると代わりに本の落ちる音がして、消えていた電気が点[つ]いた。
「封印成功…でしょうか?」
 姫木の神妙な呟[つぶや]きに、南は奥まで進み、落ちていた札を拾い上げた。
 少し重みのあるそれは、知っている未使用のものよりいくぶん褪[あ]せた感じがする。
「成功…みたいね」
 言って南はくるりと振り向いた。
「すごいじゃない姫木。いつの間にここまでできるようになったの?」
 笑顔で言う南に、姫木は赤くなって口ごもった。
「いくつか試してみて、札が1番相性が良かったからな」
 後ろから寺元がそう言って、姫木の頭に軽く手を置いた。
「ふーん、姫木は『札使い』か。良かったわね。相性いいのが見つかって」
「はい」
 にこにこと嬉しげに封じた札を渡す南に、姫木は真っ赤な顔のままそれでも誇[ほこ]らしげに返答した。
「あ、でもどうしてココに来たの? 社会科学習室じゃなかったの?」
「そっちで視[み]たら、移動しててな。残滓[ざんし]をたどって来たらここに着いたんだ」
「ふーん。…って、じゃあこの書類も書き直さなきゃ駄目じゃないっ !?」
 寺元の説明を聞いて、南はそう言うとドアに向かった。
「後始末[あとしまつ]お願いね」
 振り向いてそれだけ言うと、あわただしく廊下を走る。
「んも―――。コモン印までもらったのに――――」
 手直しする部分を頭の中で考える。
「ったく、1日に2つも出てんじゃないわよ」
 ばたばたと走る南の足音は校舎中に響いて、次の日の話題になったのはまた別の話。
 書類をきちんと提出できた頃には、生徒会執行委員のメンバーが帰ろうとしていた頃だったらしい。
「明日こそは、普通の日常が送れますように」
 帰りに星空に願うものの、慌しい東都 南の日常に、平凡の文字はなかったりする。


The End.






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