「頭痛くて、このまま授業受けても辛いと想うんで、帰ります」
痛む部分に手をやると、ぷくりとたんこぶができていた。
(うぅ。痛いはずね)
「南?」
驚いたような声を上げる柚香に、南は顔の前で手を合わせた。
「ごめん柚香。ちょっとこのまんまじゃ、たちうちできないわ。もしヤツが出たら、 『ミッション6〜8』を使っといて。指揮は芦澤[あしざわ]に。 …ちょっと心配なのは心配だけど」
「わかった。伝えとくわ」
南の指示に、柚香は神妙に頷[うなず]いた。
「そう。じゃあ担任の先生には早退したって伝えておくわね」
「はい。お願いします」
宇野田先生にぺこりと頭を下げて、ベッドを降りる。
「あ。荷物」
「とってくるわ。南はここで待ってて」
柚香はそれだけ言い置いて、慌しく保健室から出て行った。
「今の間だけでも、頭を冷やしておく?」
「いや、すぐだと思うし、いいです」
言うものの、痛みは続いていて、何か考えるのも億劫[おっくう]だ。
「無理はしないで、今日は安静にしてなさいね」
宇野田先生の声と共に、頭の後ろに冷やりとしたものが当てられた。
「それ、ケーキについてきた保冷剤だから、あげるわ。そんなものでもあった方がいいでしょう?」
確かに、冷たさが痛みを吸い取ってゆくのか、先程より少しマシになった感じがする。
「ありがとうございます」
「南、鞄持ってきたわよ」
勢い良く扉が開けられて、柚香が顔をのぞかせた。
「お大事にね」
宇野田先生に軽く礼をして、二人は校門へと向かった。
「明日には完全回復しててよね」
突き放した言い方だが、それだけ自分は信頼されているのだと感じて、南は頬を緩めた。
「ん、ありがと。後よろしく」
「了解。」
笑って柚香と別れると、バス停へと角を曲がった。そのまま一歩を踏み出して…
「 !?」
そこにあった缶[かん]につまずいて、南は派手にすっ転んだ。
「いったぁ〜…」
腕とひざ小僧がすりむけている。血がにじんで、風呂でしみそうだ。
「もうぅ。」
鞄からティッシュとばんそうこうを取り出してぺたぺたと応急処置をする。
ふと通りを見ると、去ってゆく乗るはずのバス。
「――――――〜〜っっ。…今日は厄日[やくび]かも」
はふ。という盛大なため息がひとつ、晴れた空に吸い込まれていった。
The End.