「窓の鍵オッケー、電気&換気扇[かんきせん]オッケーね」
クラブ終了後、明日提出予定の書類を書き上げてから、南は戸締りをしてクラブハウスを後にした。 陽が沈んで辺りは闇に染まる時間だ。
「遅かったな、東都」
校門で意外な人影を見つけて、南は少し驚いた。
「芦澤? どしたの? 先に帰ったんじゃなかったっけ?」
「ん、ああ。今日は体トレなくて余裕があったから図書館で勉強してたんだが、 閉館で追い出されてな。で、上から部室の電気が見えたんで、もう帰るだろうと思ったんだが」
思ったより時間くってたな。
言う芦澤に、東都は苦笑した。
「終わったんならさっさと帰ればいいのに、あんたもモノズキよね」
校門を抜けて、歩き出す。
「ん、あ、まあ…。『部長にだけ全部押しつけて』ってのも良心が痛んでな」
「あれ? 芦澤に良心なんてモノ、あったの?」
「東都―――〜〜っっ」
くすくす笑って、先を進む。
「なぁ」
「ん?」
振り向いたその顔は、昏[くら]さの中でよく見えなかった。
「東都はさ、ドコの大学受けるんだ?」
このごろよく訊[き]かれる質問。来年になれば、今よりもっと切羽[せっぱ]詰まる問題。
「ん――、その時の成績で行けるトコかな」
「推薦[すいせん]は?」
「ああ。でもウチって推薦大したことないじゃない? それに、 あんなのすっごい優秀な人しかできないじゃない」
学校へ与えられる学校推薦も、自己推薦も、成績がすべからく良くないと難しいのだ。
部活動だって、学校のためにはなるけれど、スポーツ等で表彰状をもらえるわけでもない。
「東都、成績悪くはないだろ?」
「んー、でもねぇ。『絶対に行きたい』ってトコがあるわけでもないのよね」
「理想高そうだよな、東都って」
「理想とかいうのもちょっと違うんだけど」
自分の未来はまだ、不確定でヴィジョンが見えない。興味のあるものはあるけれど、 もっと先まで考えると、それを選んでよいのかもわからない。
道はたくさんあるけれど、まだ決められずにいるのだ。
「あッ !! バス !! あたしアレだから先に行くわね」
「あ、おう。またな」
やって来たバスに、南は慌てて停留所へと駆け出した。
だから、芦澤が後姿を見ながら呟いた言葉は聞こえなかった。
「同じレベルになるには、もっと勉強しないと駄目だな」
二人の道が決まるのは、数ヶ月先の事。
The End.