ヒトヒラ


ひなたぼっこのような ぬるま湯の生活
あったかくて気持ちよかったけど
ばいばい。
あたしは旅立つから。
シアワセは気がつけばそこにあったものだけど。
傷ついてもユズれないもの、手に入れるために。



空を飛びたいと思っていたあの頃。
空はあたしの願いだった。
今、海の中で思う。
海は空なんだと。
あたしは翼を持っていたんだと。
見えない翼を。



翼の使い方を教えて下さい。



昭和の匂い。
夏のひ。
山の上に建つお社。
黒髪三つ編みの女の子は駆けて行くの。
水平ではない石の階段。零れ落ちる木の葉の影。
音のしないまちで。
夏の日。
見下ろせば電車の走らない横長の線路。
静かなまちで、彼女は逢うの。



蝶。
烏揚羽[からすあげは]の舞う午[ひる]に。
砕[くだ]かれた色硝子[いろがらす]の欠片[けっぺん]。
踊る光を乱反射して
さざめく水面[みなも]に落下する。
ぱしゃりと跳ねた僅[わず]かな水は
風に誘われ虚空[そら]に溶けた。
目に映る空気[もの]は愛しく滑[すべ]らかで、
身をゆだねて沈み行く。

足跡を残した水の上で
戯[たわむ]れ歩く砂粒[さりゅう]の追尾に。




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