ヒトヒラ

それは混沌のなかに



ざくざくと刻まれるような{思い}に。
            {想い}  
透明な、白く濁ったキレイなものにざくざくと貫かれるような感覚に。



わたしは。私は。あたしは。
沈んでゆく深い場所[ところ]。
青くて。深くて。色も空間も密度も深くて。
沈みきれない中途な想いを横目に。
ただひたすら沈んでゆく。
手にした波は、触れた途端指の間から通り抜け。
掴めないもどかしさ。
対なる快さに。
我ながら中途半端な存在と思い知る。
降り続ける事に飽きはない。
それは自然な事だから。
果て[げんかい]を知ることは許されず。
ただひたすら降りてゆく。 落ちてゆく。沈んでゆく。



夕闇の舞い降りた空の果てで。
すいと泳ぐ魚のように。
白く降る雪明りの中を歩いた。
飛ぶ翼じゃなくて
飛べるための願いを 今。
心の奥に光らせて。
ひらり舞う烏揚羽の そのひとひらに。
点り灯の森。
明けの姫。



ピアノ線の切れる音にびくりと震えた。
週末の空へと向かう君は。
いっそ残酷なほどきれいな。
喉元にぴたりと当てられた刃物の冷たさで。



まるで熱帯夜の熱帯魚

残酷な夢に映る
残酷な程美しい 見果てぬ夢に

酷似した生き物。
ざんこくなほどにうつくしい
きらきらねむる ゆめ



いつ崩れるかわからない 砂の城
波にさらわれないよう願っている
嵐の舞う夜 降り立つは銀の翼
雨滴[あまつぶ]に翼を輝かせ
遠くを目指し 睨む瞳



冬の砂漠に降る太陽



眠れる森に深く落ちた
茨[いばら]の棘[とげ]に柔肌[やわはだ]を裂かれ
傷から生命[いのち]をしたたらせて
彷徨[さまよ]うのはいかばかりか
森を泳ぐ人魚はそれを横目に
すいと奥へ身を進ませる
生命[いのち]が朽ちて 地に還ろうと
樹々[きぎ]の葉はざわめくばかり
ただあてもなく彷徨うは
はるか遠き海よりの使者
鶫[つぐみ]が鳴くのは如何時[いかどき]か
茜の実を数え 空の沈むのを待つ



誰かに会いたいの
私を知っている誰かに。
誰にも会いたくないの
私を知っている人には誰にも。
心は矛盾なき矛盾を内包する。



喉元につき立てた
ナイフを引き抜いて
浴びた返り血で
空の絵を描[か]くの



月の浮かんだ夜に ぷかりと漂う白い衣は
波間にちらりちらりと 細い光を反射させる[ひからせる]。

太陽の沈んだ地で。
夕闇の濃く撒[ま]かれた地で。
"贄[にえ]"という名の神性の下[もと]に 炎に身を捧げたのは、
神の徒[と]か悪魔の徒[と]か。
焼かれたる瞳はただ虚[うつ]ろで、
夢見ぬ楽園へと翼を飛ばす。



手を伸ばした先は 掴[つか]めないぬるりとした液体で
まとわりついた'それ'を払えずに
ただ'それ'に呑まれてゆく。
とけてゆくような感覚。
とろけて、溶け出してゆくような感覚。
境は確かに在[あ]ってそして無いもの。
足の先から受ける浸食に逃げ出す術[すべ]を奪われた「ひと」は
心の奥より詠[うた]を紡ぎ出す。



最期の本心は、
"誰にも見せないもの"。
ひらひらと手を振って、
はるか彼方を見やる。



天を目指した魚名[サカナ]は、
空気も光をも越えて、
そのカーテンをくぐったその先。
在[あ]るものを夢見ている。

そこは硝子[ガラス]の宇宙。
手に入らない、脆[もろ]い玩具箱[おもちゃばこ]。
「彼女」はそれを眺めるだけ。
見つめるばかりで手出しはできない。
手にした途端、
それは崩れてしまうから。
それば同時に「彼女」の崩壊[ほうかい]。
存在意義の消滅。
「自我」を保てない者は、
'それ'に呑み込まれるのだから。




TOP   CLOSE   HITOHIRA