夏の海に奪われた命は
 もう二度とここへは帰らない
 そんなことは、わかっていた
 わかっていた


 けれど


 夢の中で呼んだのは貴方でしょう
 夢の中で私の名を呼んだのは、貴方でしょう
 変わらない声
 間違えたりしない


 優しく透き通ったその声


 貴方は待っているの?
 未だ私を待ってくれているの?
 ねえちゃんと教えて
 名前を呼ぶだけじゃなくて
 私はどうすれば良いのか、教えて


 私は貴方が請うままに
 私は貴方の言いなりに


 ああ海の香りがするわ
 ああ波の音が聞こえるわ
 あの時嗅いだ香りと同じ
 あの時聞いた音と同じ
 ただ違うのは、貴方が傍にいないこと
 ただそれだけのこと


 それだけのことなのに


 貴方はそこにいるの?
 貴方はそこから呼んでるの?
 貴方が私を呼ぶのは何故?


 私の傍に貴方はいない


 貴方の傍に私はいない


 貴方はここへは帰ってこない


 ここは私一人きり



 私がそこへ行けば
 貴方の傍にいられるの?



 貴方はそこで、待ってるの?



 貴方が願うなら
 貴方が望むなら
 貴方が私と同じ想いなら



 体など、要らない



 沈んでいく沈んでいく
 深く深く海の底
 貴方はそこにいるのかしら
 私は何処へ行くのかしら


 そこに待つのは何?
 そこにいるのは誰?



 たどり着いた海の底



 待っていたのは、奈落の世界
 
 

(終)




こういう暗い系の話も好きだったりします。
ありがとうございました
コレを書かれた野木さんのサイトはこちらです。


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