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「放っておくわけにもいかないし、稲見[いなみ]先生にお願いしましょう」
 南はそう言うと、野次馬[やじうま]に来ていた先生方をすり抜けて、 悪霊退治部顧問教師の机へと向かった。
「稲見先生」
 5列向こうの騒[さわ]ぎには全く動じずにデスクワークをこなしていた優面[やさもて]の社会科教師は、 南の声に顔を上げた。
「東都と姫木か。…どうした?」
 騒ぎの多い白露高校でも常にマイペースを保つ稲見先生は、2人に座るよう椅子を勧める。
 勧められるまま椅子に腰掛けた2人は、多目的ホール用具室での事を説明した。
「…で、あたし達で何とかできるレベルのモノではないので、相談しに来たんです」
 ふむふむと話すまま頷いていた悪霊退治部顧問は、話すにつれ、眉[まゆ]をしかめた。
「今日は朝にも社会科学習室が荒らされていたし、昼にも<遮断者>が出ただろう?  1日に3件とは多いね」
「はい、多いですね。何かあるのかと思うくらいです」
 3つともに関わった南は、実感を込めて頷いた。
「ともかく、その『箱』はどうにかしないといけないね」
 稲見先生はそう言うと、引き出しから小さな鞄[かばん]を取り出し、立ち上がった。
「用具室に行こう」









 稲見先生を連れて再び多目的ホールへと戻って来た南と姫木は、用具室の前で足を止めた。
「この先はひとりで行くから、東都と姫木はココで待っていてくれないかな」
「はい」
 2人の了承に、優面の社会科教師は1人、小さな鞄を抱えて用具室へと入って行った。
「大丈夫…でしょうか?」
「わからないけど、でも稲見先生は、あたし達より強い呪[しゅ]を扱うから…」
「そうなんですの?」
 驚く姫木に、南はそうなのよ、と返答した。
「何でも、先生の家がソレ系らしくて、ここに振られたのもそれが関係してるとか」
 噂だけどね、と冗談めかす南に、姫木は「そういえば」と思い出したように告げた。
「新入生のオリエンテーションで、足を踏み入れない方がいいスポットを説明されていたのって、 稲見先生でしたよね。悪霊退治部の顧問をなさっているから説明に当たられたのだと思っていましたけど」
「それもあるんじゃないの? あたしが入学した年も、先生が説明してたしね」






「お待たせ」
 しばらく扉の前でしゃべっていると、そう言いながら稲見先生が顔を出した。
 その手には、札[ふだ]が貼られ、紐[ひも]でくくられたあの『箱』があった。
「悪いけどこれ、浄化層に納めておいてくれないかな」
 言って、箱を差し出す。
「きちんと封じたから大丈夫だよ。浄化層に納めておいてくれるかな」
「はい、ありがとうございました」
 自分たちでは手の出ない存在をあっさりと封じた顧問に、 尊敬と称賛[しょうさん]を心で送りつつ、2人は多目的ホールを後にした。




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