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「こちらポイントF、標的[ターゲット]出現ッ !!」
 シーバーのスイッチを入れそれだれ叫ぶと、南は武器を手に取った。
 短い羽根のついたそれは、一見どこにでもあるダーツの矢に見える。
 けれど軸の部分に力を宿した文字がびっしりと刻まれているのだ。
「うりゃあっ !!」
 南の投げた矢は標的をするりと抜け、その向こうの廊下に刺さった。
 それにも構わず、次々と矢を投げる。南の投げた矢は、本体には当たらず、 その周りに刺さっていた。
 ゆらり、と動き出した首なし男は、けれど矢の近くで弾かれたように身をすくませた。 矢が小さな結界となって、その場に閉じ込めているのだ。
「うし、OKッ !!」
 南の投げた矢を取り巻くように、芦澤が縄[なわ]を張る。
「標的の足断ちに成功、どうぞ」
 シーバーのスイッチを入れ、報告する。
『了解。ポイントAを残し、ポイントFに移動して下さい。どうぞ』
 柚香の声に次々と了解の反応が返る。
「縄、張り終わったぞ」
「んじゃあ一気に…」
 嫌な予感が走り抜けて、南は左に飛んだ。



 ガシャァァンッ…



 同時に南の右側の窓が割れ、ガラスが散る。
「東都 !?」
「平気、それより油断しないで !!」
 立ち上がり、敵を見る。
 相変わらず動けないではいるようだが。
「ポルターガイスト、ね」
 隅[すみ]の掃除道具入れがガタガタと音を立てる。その隣、消火器が浮き上がり…
「東都 !!」

 ピィ―――――――――――――――

 消火器が南へ向けて移動してくるのと同時に高い笛の音が鳴った。

 ポーン…

 鼓[つづみ]を打つような音が聞こえ…



 ゴトッ。


 南の顔面で、消火器が浮力を失い地面に落ちた。
( !?)
 わからず視線を向けると、電気が復活し、廊下の向こう側に封印具を持った寺元の姿が見えた。
『標的[ターゲット]、封印完了』
 シーバーと肉声の両方から寺元の声が聞こえる。首なし男の姿は消えていて、 その痕跡[こんせき]もなかった。
「作戦終了、だな?」
「ん、さんきゅ。」
 近づいて言う寺元に、南はとびきりの笑顔を返した。
「それじゃ『それ』、浄化層に置いといてね。…っと、そうだ芦澤」
「ん?」
「さっき何か言いかけてなかった?」
「……」
 開始直前で話が切れていたのを思い出し問いかけたのだが、芦澤は口をつぐみ、 しばらくして一つ息を吐いた。
「何?」
 作戦終了で機嫌の良かったはずの南の眉間[みけん]に、小さな皺[しわ]ができる。
「いや、いい。それよりコレ、部室でいいんだな?」
「え? ああうん。そうだけど?」
「じゃあ、先に持ってくからな」
 よっ、と道具を担[かつ]いで部室に向かう芦澤を、南はあっけにとられて見送った。
「…何? アイツ?」
 今の態度はわけがわからない。




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