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「ここの上みたいね」
鳥肌が立つような感覚を受けて、南は階段を見上げた。
「道具、持ってるわよね?」
「はい」
「じゃ、行くわよ」
姫木が頷[うなず]くのを確認して、二人は階段を駆け上がった。
ぞわりとした感覚が強くなって、道具を握る手に力が入る。
3階の廊下へと出た南が見たものは、結界から逃[のが]れようとする悪霊の姿だった。
ひやりとした冷気が辺りを包む。
張られた結界が保[も]ちそうにないのを見てとった南は、 手にしていたダーツの矢のような対悪霊用武器を次々と結界の更に外側に投げた。
円を描くように廊下に刺さったそれが互いに共鳴し、新たな結界を張る。
「今のうちに !!」
南の声に、向こう側で寺元が封印の道具を掲[かか]げた。
「世界に強く在[あ]るもの。形成し姿持たぬもの。眠るるは世界の欠片[かけら]。 在るべき場所[ところ]へ帰還せよ !!」
びりびりと通る声が響いて、呪[しゅ]が発動する。
空気が吸われるような感覚がして、同時に悪霊の姿が消えた。
気配がなくなったのを確かめて、寺元はぺたりと札[ふだ]を貼った。
「封印完了」
寺元の言葉に、全員の肩の力が抜けた。
「メンバーがいた割に、時間かかってたのね」
「そんな事、言わないで下さいよ先輩。アイツ、すごい強かったんスから」
浜松の疲[つか]れた声に、他の上級生はそれを肯定するような様子を見せた。
「で、そっちはどうだったんだ?」
「すっごい間違いありまくりの呪[しゅ]が書いてある紙があったから、燃やしてきたわ。…ああ、 後で火気使用の報告書出さなきゃね。それとコレ」
芦澤の問いに事もなく答えると、南は先程のシャーペンを取り出した。
「何だコレ……針?」
「ん、後ろから投げられちゃったわ」
「東都?」
「で、頭きちゃって、ソイツの周りに『影』出しちゃったけど」
「あ…あ――――。『影』、な」
以前、それに囲まれた覚えのある芦澤は、少し顔を引きつらせた。
「先程の、それでしたのね?」
姫木の呟[つぶや]きに軽く頷いてみせる。
「ま、あれだけ脅[おど]しておけば大丈夫でしょう。さ、ソレ浄化層に納めて戻りましょう。 時間くっちゃったから、今日は後、ミーティングだけね」
笑顔で告げて、南は片づけを促した。