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 気になって南は箸を置いた。
 食べかけのお弁当に蓋[ふた]をして席を立つ。
「行くの?」
「うん、行って来るわ」
「お昼ごはん食べ損ねないように、昼休みの間には戻って来なよね」
「さんきゅ。」
 『いつものこと』と自分の行動をわかっている友人に笑みを返して、南は放送室へと向かった。










「あ、部長」
 丁度、放送室の前で鉢[はち]合わせたのは、部員の相馬 拓人[そうま たくと]だった。
「あら。相馬も来たの? さっすがウチの部員ね」
 笑顔で言って、ドアへと向き直る。

 トントントンッ。

「すみません」
 ノックをして声をかけるが、中から反応は返ってこない。
「しょうがないわね。開けるわよ」
 相馬が頷[うなず]くのを確認すると、南はガラリとドアを開けた。
 と途端[とたん]に中から黒い『何か』があふれ出した。
「 !! <遮断者>ッ !?」
 逃げる間もなく『それ』に呑み込まれる。
「相馬 !?」
 慌てて振り返るも、もはや何も見えない。
「うっわー。ヤバいわね。パニくってなきゃいいけど」
 <遮断者>はその名の通り、世界との交信を遮断する者。
 居る場所は変わらないけれど、声は吸い込まれて届かないし、 もちろん向こうからの音もこちらに届いて来ない。視界も闇の中にいるようで、何も見えない。
 自分は<遮断者>を知っているから良いものの、 今年入部した相馬が下手にパニックに陥っていなければ良いのだが。




→ どーしよう。様子見のつもりだったから何も持ってないのよね。

→ そういえば、今朝部室で小瓶を持って来たっけ。



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