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「アレをどうにかしないといけないし、お昼食べて午後からの授業には出ます」
「そう。でも無理はしないようにね。他に体が変な所はない?」
問われて南は身体を動かした。
「頭が痛いだけで、他は大丈夫みたいです」
「ああ、大きなたんこぶできてたものねぇ。そうそ、ちょっと待っててね」
「たんこぶ(汗)!?」
頭に手をやると、言われたように大きなたんこぶができていた。
「痛いはずね。…にしても、たんこぶなんて何年ぶりかしら?」
すり傷等はあるものの、ここ久しくはこぶができた記憶はない。
「東都さん」
呼ばれて南はベッドを降りた。
「はい、これ」
渡されたのは黄緑色のアイマスクらしきもの。
「これ…?」
ただのアイマスクかと思えば、中に何かが入っているらしく、ひんやりと冷たい。
「保冷剤が入っているの。手で当ててるのは疲れるでしょう? だからこうやって…」
宇野田先生はそう言って、南の頭にそれを巻きつけた。
「ね? 楽でしょう?」
「…見栄えは良くないですね」
「文句言わないの」
「…はい」
眼鏡の奥がキラリと光ったようで、南はおとなしく好意を受け取った。
※
午後の授業を受けて放課後。
掃除[そうじ]を終わらせた南は、鞄を手にクラブハウスへと向かった。
部室の近くまで来ると、もう部員が来ているのか、数人の話し声が廊下まで聞こえてきた。
「はろぅ。今日は何人いる?」
「はろー南。見ての通りよ。集合かかってるから全員ばっちり」
扉を開けて部室に入ると、賀田 柚香[かだ ゆうか]がそう答えてくれた。
「こんにちは先輩。頭、大丈夫ですか?」
朝の一件を聞いたのか、そう言ったのは1年の姫木 馨[ひめぎ かおる]だ。色白黒髪の、和的美少女である。
「ん、マシになったわ。このあたしに怪我させてくれたんだから、きっちりお返ししないとね」
にっこり笑んで答えてやる。
「昼休みに先生と生徒会に書類も出したから、武器使用もOKよ」
「あ、東都」
「何? 芦澤[あしざわ]」
のんびりと声をかけられて、南は鞄を置きながら答えた。この大柄温和な男は、 芦澤 透[あしざわ とおる]。副部長に当たるのだ。
「昼休みな、<遮断者[しゃだんしゃ]>が出たんで、封印したからな」
「ああそう…って<遮断者>!?」
思いもよらない報告に、南は声を荒らげた。
「出たの? アレが !? それに封印した !?」
「ああ。ちゃんと浄化層[じょうかそう]に納めといたから」
「うっわー。見たかったな。<遮断者>なんて、むちゃくちゃレアな奴じゃない」
「で、東都。新入りの奴の方はどうなんだ?」
悔しがる南に冷静な声をかけたのは、対悪霊用武器のスペシャリスト、 寺元 智貴[てらもと ともき]だった。
茶髪ピアスな一見不良児は、対悪霊用武器にかけてなら右に出る者がいないだろう重要戦力のひとりだ。
「ああ、そうよね。『新入り』のために集まってもらったんだものね」
言って南は部員を見回した。一同、真剣な表情になる。
「今朝、社会科学習室で『新入り』が出たわ。外見は首のない男性。能力はポルターガイスト。 かなり力は強いみたいで、机ぐらいなら簡単に飛ばせるみたいね。その他は未だ不明。 不意の攻撃に注意して」
「対話は?」
「それも不明。だけど交渉ができるなら、 『いきなりあたしに攻撃する』っていう行動はとらなかったんじゃないかと思うわ」
「無理と考えた方がいいか」
芦澤の呟[つぶや]きに頷[うなず]く。
「二人目の犠牲者が出る前に、あぶり出して浄化あるいは封印しようと思うの。許可はもう、 取得済みよ」
言って南は、書類のコピーをぺらりと見せた。
「んでもって、こっちが作戦マニュアル。一部ずつ取ってって」
生徒会で輪転機[りんてんき]にかけた用紙を部員に配る。
「各自のポジションだけじゃなくて、全員の配置を頭に入れておいて」
「東都の名前がないが、どこに入るんだ?」
芦澤の問いに、南は笑んで答えた。