「来られない子がいたら、そこに入るつもりだったんだけど、みんな集まってくれたから、そうね、 寺元と一緒の所に入れておいて」
「ポイントＤはいいのか？ 東都」
「足場悪いでしょ？ ソコ。封鎖して、そっちに行かせないようにしてるはずよ。 ポイントＧも同じくね」
芦澤の問いをさらりとかわす。
「他に質問は？」
部員の顔をぐるりと見渡した。
「ないみたいね。じゃ、決行は下校時刻。午後６時スタートよ。何かダメな所があったら言って。 じゃなきゃ、しっかりソレ、頭に叩［たた］き込むこと。いい？」
『はい』
『了解』
『おう』
同時に上がった了承の声に、南は笑みを深くした。
校内に下校を促す音楽が流れている。何処かで聞いた事のあるようなクラシック音楽は、６時５分前から流れ出し、午後６時のチャイムにかき消されるようにして止まる。
音楽の流れる校舎内は、特に文化部の部活のない日はがらんとしていて、 無機質な感じが何とも寂しい。同じ人がいない廊下でも、どうしてこうも朝と違うのか、 首を傾［かし］げる程だ。
『ポイントＢ、準備ＯＫです。どうぞ』
『ポイントＢ確認。開始まで１分半。どうぞ』
ウエストポーチに差したトランシーバーから、状況を伝える声が流れている。
視聴覚室のモニターの前には柚香が座っているはずだ。 トランシーバーは同時に発信機にもなっていて、一目で位置が確認できるようになっているのだ。
「ぬかりはない？」
グループになった寺元ともう一人、１年の橋塚 孝輔［はしづか こうすけ］に声をかける。
「…誰に手ほどきを受けたと思ってるんだ？ 東都」
揶揄［やゆ］するような、自信たっぷりの寺元の返答に、南は苦笑した。
「そうよね。山治［やまじ］先輩直伝の『バズーカ寺元』だものね。愚問だったわ」
対悪霊用武器のスペシャリスト。道具を扱う素質は元々光っていたものの、 それだけで今の寺元があるわけではない。先代の道具担当者、 山治 匠［やまじ たくみ］に白露高校にあるすべての道具の扱い方をみっちり仕込まれたのだ。
そして次代の道具担当者に選ばれたのが、この橋塚だったりする。
少々頼りない所もある眼鏡少年なのだが、状況に合わせた道具の選び方や扱い方は的確で、 機械いじりの腕も持つ。
「奴が出たら、あたしは突っ走ると思うから、フォローよろしくね」
にっこりと笑んだ南の言葉に続くように、トランシーバーから柚香の声が大きく流れた。 それを耳にし、橋塚が笛を口にする。
『残り５秒、４、３、２、１、スタート !!』
午後６時のチャイムと同時に、高い笛の音が校内に鳴り響く。 一種の結界の形をとって各ポイントから鳴らされている音は、共鳴し、大きく響いているのだ。
そしてこの『音』は、結界内にいる＜形なきもの＞をあぶりだす効果を持つ。
校内公認の浮遊霊ののえさんに頼んで、無害な白露高校の住者には、 結界内から避難してもらっている。残っているのは、 対話の通じない少々危険な者たちのみという事だ。
長く吹いていた笛の音が止む。…と同時に、シーバーから大きく声が放たれた。
『こちらポイントＦ。標的出現。加勢求む。どうぞ…』
それを聞くやいなや、南と寺元は、ポイントＦに向けて走り出した。
「こちら、チーム寺元。了解、どうぞ」
「橋塚、ちゃんと仕掛けしときなさいよッ !!」
寺元がシーバーに応答するのを聞きながら、南は振り向きつつ叫んだ。
「はいっ !!」
廊下に響く返事を耳にしながら、さらに加速して走りぬける。
と、シーバーから焦りを含んだ声が流れた。
『こちらポイントＦ。すまん。足止めに失敗。標的はポイントＣに向けて移動』
「なッ !? こっち？」
ぞわり。
嫌な感覚が背筋を走る。
南はとっさに道具を構えた。
