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「はろー」
 6時間目が終わって放課後。南はいつものように勢い良く部室のドアを開けた。
「あ、南。はろー」
「こんにちは」
 今イチ元気のない賀田 柚香[かだ ゆうか]と姫木 馨[ひめぎ かおる]の様子に、 南は眉[まゆ]をひそめた。
「…何かあったの?」
 ドアを閉めて鞄[かばん]を下ろす。
「姫木がね…」
 言って柚香は姫木に視線を移した。
「いつもより、強い感じを受けるんです」
 真摯[しんし]な瞳で姫木はそう告げた。
 1年の姫木は、『色白霊感少女』の異名がぴったりと合う黒髪の少女だ。
 その感受性はクラブでも1番強い。そのため、 この霊の類[たぐい]の多くたむろする白露高校では、影響が少なくなるよう、 護符[ごふ]を常時持っているはずなのだが。
「護符は持ってるのよね?」
「はい。持っていますわ」
 強く言い切って護符を見せる。
「『強く感じる』って、どこで?」
「多目的ホールの、用具室ですわ」
「用具室、ね…」
 言われて南は記憶をめぐらせた。
「あそこは…<囁[ささや]きの美女>?」
「春日[かすが]さんがいらっしゃるのはいつもの事ですけど、彼女とは別の感じがしたんです」
 用具室に根を下ろす<囁きの美女>ではないと言い切る姫木に、困惑[こんわく]が募[つの]る。
「んー。なら、行ってみる?」
「はい」
 訊[たず]ねる南に、姫木はきっぱりと返答した。




→ 多目的ホール用具室へ。



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