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「どうにかしなくちゃ」
そうは思うものの、混乱していて対処が思いつかない。
ゆらり、と影が立ち上がった。
首のない、男の影。ぞわりと鳥肌が立つ。
(何か…そうよ塩 !!)
鞄の中にあったはずだと思い出し、けれど南は動けずに固まった。
視線の先にあるのは新入りの霊と、その『すぐ傍[そば]』にある自分の鞄。
とっさに距離をとったものの、塩は意識体のすぐ真下にある。
(うわ最低)
焦りだけが満ちてゆく。…と、ゆらりと霊がゆらめいた。同時にふわりと浮かぶ教室の備品。
「 !?」
何が、と身構える暇もなく頭の後ろに衝撃を感じ、南の意識はふつりと途切れた。
誰かの話す声が聞こえる。
知っている声のような気もするけれど。
(誰だろう)
思ってぼんやりと目を開ける。
「 !?」
覚えのない天井が目に入って、南はがばりと身を起こした。
そのせいでか、くらりとする視界。
(???)
「え? 南? 大丈夫?」
慌てたような声を出したのは、同じ部活の賀田 柚香[かだ ゆうか]だった。 その後ろのクリーム色のカーテン。自分が横になっていた固いベッド。
「…保健室?」
イマイチ記憶がつながらなくて、南は訝[いぶか]しげに呟[つぶや]いた。
「あら東都[とうづ]さん。よかった目が覚めたのね」
聞こえてきた声に首をめぐらせると、丸眼鏡[まるめがね]におばちゃんパーマの白衣の先生が、 カーテンを開けながら入ってくる所だった。
「宇野田[うのだ]センセイ?」
「ずいぶん長いこと目が覚めなかったから、どうしようかと思ったわ」
にこにこと微笑んで告げる。
「頭打ってたみたいだけど、吐き気とかはない?」
保健医の宇野田先生に訊[き]かれ、南は今更ながらに頭の痛みに気がついた。
「あ、はい。何かズキズキするんですけど、あたしどうして…?」
「南ぃ。悪霊退治部の部長が何やってるのよ」
怒ったように柚香に言われ、南は痛む頭で記憶をめぐらし…
「あッ !! あの新入り !?」
「…逃げられちゃったわ」
青くなって柚香を見ると、彼女は憮然[ぶぜん]として答えてくれた。 眼鏡の奥の据[す]わった瞳がとても恐い。
「ごめん」
顔を見れなくてうなだれる。責められても反論の仕様がない。
「ま、東都さんも反省してるみたいだし、賀田さんもそれくらいにしといてあげたら? あんなのなんて、よくある事でしょう?」
「…よくあったら困ります」
宇野田先生は、静かながらもかなり怒っている様子の柚香に肩をすくめて、南へと言葉を向けた。
「東都さん、今お昼休みなんだけど、お昼食べて授業に出れる?」
そういえば、保健室内もがやがやと騒がしい。
→ 逃げられた霊をどうにかしなくちゃ。 もちろん授業に出ます。
→ ちょっと頭痛がひどいから、このままは無理かも。