逢桜 ―あひさくら―





 はらはら散る白い花びら。
 はらはら、はらはら舞い落ちる。
 桜坂[さくらざか]の桜は、咲いたそばから散ってゆく。
 はらはら、はらはら…
「そんなに見つめていると、桜に魅入[みい]られてしまいますよ」
 聞こえたのは、坂の上。羽織[はおり]をはおった男の人。 陽[ひ]が半分沈んでいるから、顔はよくわからない。
「お気をつけなさい」
 その声に背を押されるように、わたしは桜坂から逃げ出した。
 …けれど、かけられたその声に、既[すで]に惹[ひ]かれていたのかもしれない。


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