雨が降っていた。
 キルはシーナの眠る墓の前にひとり、佇[たたず]んでいた。
 人は死ねば、肉体は溶けて水に還[かえ]り、 その心は青の守護神が虚空[そら]に溶かすのだと言われる。
 もう、シーナに出会うことはできないのだ。…二度と。
 降りしきる雨の中、どのくらいそうしていただろう。
 ふと視線を感じて、顔を向けた。
 そこには手に籠[かご]を持った幼い少女が立っていた。
 キルと同じ、青味がかったストレートの髪。一目で孤児[こじ]とわかる格好。
 目が合うと、少女はびくりとして、籠を落とした。
 慌てて、籠を拾う。
 キルは何故[なぜ]か懐かしさを感じ、少女の方へ歩み寄った。
「あ。えっと、あたし、薬草を採りに来ただけなの。あ、ご、ごめんなさいっ」
「あ、待って」
 くるりと背を向けて走り出そうとする少女に、キルは思わず声をかけた。
 ゆっくりと振り返った少女の青い瞳には、怯[おび]えの色があった。
 キルは、その色を消したくて微笑んだ。
「あたしはキル。お嬢ちゃんは?」
「あ、あたしはカペラ」
 少女の応えを聞いて、キルの胸がキュッと締めつけられた。
(カペラ…。幼い頃のあたしの名前……)
「おねえちゃん?」
 声をかけられて少女を見ると、とても心配そうな顔をしていた。
 キルは安心させようと微笑んでみせた。
「なんて顔してるのよ。確か、薬草を採りに来たって言ったよね? 何がいるの?」
「あ。あのね、『しんぞうのびょうき』に効くやつ。あのね、シーナがね、病気なの。熱が出てね、 あついって言ってるの」
「シーナ?」
 少女はこくりと頷[うなず]いた。
「妹なの。あたしたちね、ふたごなの」
「妹…。…シーナって、生きてるの?」
 シーナが? 本当に?
「う、うん。生きてるよ。でもね、苦しいって、あついって言ってるの」

『まさか、時を飛ぶ力があるなんて思わなかったけど』

 キルの頭の中に深緑の瞳の少女の言葉が響いた。
 カペラという名前。雨。妹のシーナ。そして……『キル』。
 幼い頃の記憶が、蘇[よみがえ]った。
 雨の中に佇む彼女。薬草を採りに来たカペラ―――――
「じゃあ、ここは……あたしは……」
 キルの頭の中で、すべてがひとつに繋[つな]がった気がした。
「おねえちゃん?」
 呼ばれてキルは、カペラを見た。
 心配そうに自分を見上げている。
「おいで。薬草のある場所、教えてあげる」
 そう言ってキルは、幼い自分の手を取った。
(今度は、シーナを死なせたりしない。どうか、未来が変わりますように。 この子が幸せになれますように……)
 キルが見上げると、いつの間にか、雨は上がっていた。



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「repetition」やっと終了です。
ひっかかってもらえたかなぁ?
「repetition」の意味は「繰り返す事」なのですよ。
この第四章、ワープロ版とはシーナの思考がかなり変わってしまいました。
んでも、等身大っぽく書けたから、こっちのが良いですかね?
キルとルナとの初接触シーンも、「それはちょっと無理やろう」と自己ツッコミ入ったため、
かなり変えています。
文章はまだまだ甘いですけれど(汗)。
さァ、残りはもう一山ですわ☆
もうしばしお付き合いよろしくです。