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「はろ――」
6時間目が終わって放課後。教室掃除を終えた南は、いつものように部室の扉を開けた。
「ちわっす」
「あ、部長。こんにちは」
見慣れた部室には、1年生の浜松 史明[はままつ ふみあき]と姫木 馨[ひめぎ かおる]の二人がいた。
「あれ、二人だけ? 他のメンバーは?」
「え? 部長、聞いてないんスか?」
「?」
「えと、今朝に社会科学習室が大変なことになっていたらしいんですの。それで生徒会から調査を、 と言われましたので、芦澤先輩と渡瀬[わたせ]先輩と賀田先輩の3人が、 とりあえずお話を聞きに行かれたのですけれど」
浜松の返答にぱちくりとまばたきをすると、姫木が戸惑いながらもフォローを入れた。
「てっきり部長の耳には入ってるもんだとばっかり思ってたんスけど」
「え !? 聞いてないわよあたし。初耳だって、そんなの。あの3人、生徒会室に行ったのね?」
「いえ、違うと思いますわ」
今にも走って行きそうな南を、姫木は慌[あわ]てて引き止めた。
「どうして?」
「ですって、あの部屋は狭いのですよ? そんな所に部外者が3人も入れませんわ」
「言われてみればそうよね」
ふむ、と納得し、走り出すのはやめる。
「で、後の子たちは?」
「相馬さんと橋塚[はしづか]さんは、掃除をしてらしたのを見かけましたわ」
「俺は全然知らないっス」
「そう。ま、そのうち来るわよね」
言って南が鞄を置くと同時に、廊下から声が聞こえてきた。
「たっだいまー。あ、南、はろー v」
先頭を切って入ってきたのは、眼鏡[めがね]の美人、賀田 柚香[かだ ゆうか]だ。 次いで芦澤と渡瀬 隆馬[わたせ りゅうま]。
「はろー。で、何があったの?」
「今朝、社会科学習室でポルターガイストが起こったらしくてな」
「ポルターガイスト? イタズラじゃなくて?」
眉を寄せる南に、芦澤が肩をすくめて答えた。
「二人がかりで運ばないと動かないっていう特製地球儀がかなり動いて倒れてたらしいから、 『こっち』関係のが強いんじゃないかってさ」
「へぇ。でも、あそこを根城[ねじろ]にしてる強いヤツなんていたかしら?」
「だから、『調査してくれ』って言われたのよ。どうする、南?」
書類を置きながら、柚香が問いかけてくる。
「どうする…って、調査はしないとダメでしょう? そうね」