暗い、暗いところ。
 緩[ゆる]やかな、何かに包まれている感じ。
 たゆたうような安心感と、奥の方でちりちりするほんの僅[わず]かな危機感。 …もう、慣れてしまった感覚。
 これは夢。
 頭の半分がそう理解する。
 これは現実。
 もう半分はそう認識する。

            眠っているはずだもの。
 だってわたしは、
            感じているのだもの。

 同時に思って、目を開ける。
 ほら、目の前には『眠っているわたし』。
 お父様の趣味で建てられた洋館。置かれた重いベッドに、人形のように眠る。
 血色の、あまり良くない顔。いつ見ても、好きではない。
 わたしは扉を抜けて、廊下に出た。わたしの身体は、 滅多に自分の部屋から出ることはないのだけれど、わたしの意識は自由に出歩いて、 家の間取りがだいぶんわかるようになった。
 これは半分は夢。
 けれど半分は現実。
 ふわり浮かぶ、わたしの意識。
 ガレエジに、二台の車。
 あれは、法野先生の車。先生がいらしているのだわ。
『外に出ても良いかお訊[き]きしてきましょうか?』
 どうかしら。駄目だと言われるだろうけれど、でもひょっとして。
 わたしは、意識を応接間へと向かわせた。


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