はらはら舞う、白い花びら。
 強い風。空間が花びらに埋めつくされる。
 両脇に桜の植えられた短い坂道。決して広い道ではないくせに、桜の木々は 押し込められるようにして植えられている。
 はらはら、はらはら…
「また、いらしてたんですね」
 気がつくとすぐ傍[そば]に、男のひとが立っていた。 黄橡[きつるばみ]の羽織を肩からふわりとかけている。優しい面立ちと短な黒髪。 その上に散る、白の花びら。ぼんやりした、日の光。
「さくらを、見に来たかったの」
 わたしはそう、答えていた。
 舞い散る花びら。
 めぐる四季の、春の絵。
「少し、お話ししませんか」
 優しい瞳で、男のひとはそう言った。


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