「それで、これが『白の涙』の破片です。白の守護神様なら、 壊れた神器を元に戻せるかもしれないと思って、守護神降臨の魔法を使ったんです」
 やわらかな陽の射すホール。椅子を戻し、それに各自腰をかけて。
 長い説明を終えた後、ルナはそう言って白の神器の破片を守護神に渡した。
 布袋から取り出された破片は、頼りなく日光を反射する。
「これは……」
 パーシカリアはそれを受け取るなり、表情を曇[くも]らせた。
「どうされたのですか?」
 シセンが心配そうに訊[たず]ねる。
「『白の涙』が砕けたのは、時空を越えたからではない」
 パーシカリアの静かな声がホールに響いた。
「確かに、時を飛んだ影響も少しはあるだろうが、 これは風と回復のバランスが崩[くず]れたためだ」
「…どういう事ですか?」
 守護神の言葉に、ラークは緊張しつつも訊[たず]ねた。
 銀の髪の守護神は、破片を見つめたまま言葉を紡ぐ。
「回復の力ばかりが使われている。…神器が砕けた時、同時に占い師の娘が死んだと言っていたな」
 確認するように、ルナを見る。
「はい。同じくらいに……」
 ルナはそう告げて俯[うつむ]いた。
 思い出すのは、穏やかに眠っているような表情。
「おそらく、その娘はいつ死んでもおかしくない状態であったのであろうな。 ……白の神器がなければ」
(え……?)
 守護神の言葉に、思わず顔を上げる。
「神器の力の平衡[へいこう]を崩すなど、普通では有り得ぬ。今にも命の消えそうな者が、 完全回復の状態にし続けるためにでも使わぬ限りはな」
 はっ、と息を呑む気配がした。
「では、その占い師が白の神器を壊した、とおっしゃるのですか?」
 シセンの問いに、パーシカリアは頷いた。
(じゃあ、あたしはあの人に『世界のために死ね』って言ってたの? だからあんなに必死だったの? あたし、あたしは……)
「クゥイン・テルナ」
 思考の海に沈もうとしていたルナは名を呼ばれ、守護神へと視線を向けた。
 その先にあったのは、穏やかな銀色の瞳。
「その娘が死んだのは、其方[そなた]の所為ではない」
 すべてを見透かすように、パーシカリアはそう告げた。
「でも……」
「その娘は自らの意思で神器を渡したのであろう? ならば、 その娘は犠牲[ぎせい]になったわけではない。己が運命を受け入れただけだ」
 ルナの中に、シーナの最後の微笑みが蘇[よみがえ]った。
 少しだけ淋しげな微笑み。
 守護神の言葉に、ルナはせめてあの微笑みは忘れないでいようと思った。





「では、我を呼び出せし者よ。其方の願いは、白の神器の再生に間違いはないか?」
 椅子から立ち上がり、問う白き神に、クゥイン・テルナは迷わずはい、と答えた。
「其方の願い、確かに承[うけたまわ]った」
 パーシカリアはそう言うと、手の上に白の神器の破片を置いた。そのまま瞳を閉じる。
 陽の光を浴びる白の守護神は、どこか美を集結させた彫像めいて見えた。
「我の力の雫[しずく]によりて、造られし白き涙よ」
 厳かにホールに響く守護神の言葉。それに応じるように、破片が宙に浮かんだ。
「我が力、我が意思において、在るべき姿に戻らん事を」
 破片が、淡い光を放ち出す。

「再生[エクトゥル・テーレ]」

 パーシカリアが詞を放つと同時に、凄[すさ]まじい光が辺りを満たした。
 思わず、目を閉じる。
 次に目を開けた時、守護神の手の上には、破片ではなく淡い光を放つ、 不思議な白い珠が浮かんでいた。
(あ……)
 クゥイン・テルナと『それ』が共鳴する。
(『白の涙』……)
 パーシカリアが瞳を開けると、白の涙は上昇し、女神の像の手の上―――――在るべき所に戻った。
 欠けたピースが嵌[はま]るように、世界が安定を取り戻す。
 と、唐突に白の涙が輝[ひか]り、6つの神器とシャーレ達が、同時に共鳴した。
 その中で、『世界』の言葉を聴く。


―――――時は来たれり
        神器は還り 安定した
        滅びの道は途絶え 再生が始まる
        夢は幻 幻は夢
        悠久[ゆうきゅう]の流れの中 眠り眠るは我の夢
        時は来たれり
        再生の道は今
        遙[はる]かなる時を廻る
        時は来たれり……





 ルナとラークが目を開けると、そこには守護神の満足げな表情があった。
 2人のシャーレは、やさしい想いで満たされていた。
「我が役目、確かに果たした。我が器、クゥイン・テルナ」
「は、はい」
 守護神に呼ばれて、ルナは背筋を伸ばして答えた。
「白の神器を捜し出してくれた事、礼を言う。世界は、滅びの道から外れた。我は戻らねばならぬ」
 贈り物だ、と告げて白き神はルナの額にそっと触れた。ルナは、 その先から穏やかな熱が自分の中に染[し]みるように広がっていくのを感じた。
「良い夢が見れるようにな」
 笑んで言うその姿が、ルナにはどこか『彼女』と重なって見えた。
「…『世界』?」
 ルナの口から無意識に出た言葉に、守護神は興味深そうにほぅ、と唸[うな]った。
「さすがは我が器。わかるのか」
「…どういう事でしょう?」
 わからなくて問うシセンに、パーシカリアは機嫌良く答えた。
「我が創造主―――其方らが『世界』と呼ぶ者と同一だと、感じたのであろう?」
「守護神様は、『世界』なの…ですか?」
「そうだとも言えるし、違うとも言える」
 おずおずと問うルナに、守護神はそう答えた。
「かつて創造主―――後に『世界』と呼ばれし者が世界を創造した時、 創造主は自らの力を6つに分け、それぞれに自我を与えた。それが我ら『守護神』と呼ばれし者だ。 ゆえに我らは『世界』と呼ばれし者であり、同時に『世界』と呼ばれし者は我らでもある。だが、 各自が自我を持つゆえ、我らは我ら自身でもある。……わかるか?」
「はい、何となくは」
 問われてルナは、眉[まゆ]をしかめながらも答えた。
 その様子に、守護神はそうか、と告げた。
「制約があるゆえ、ここにはあまり長く在ることはできぬが、其方が白のシャーレである間は、 いつでも我を呼ぶ事ができる。シャーレは器であるゆえ、 詞[ことば]を誤らぬ限りは命を落とす事はない。何かあればまた呼ぶといい」
「はい」
 ルナの応えに白き神はふっと微笑んだ。
 それは、確かに『世界』に通じる笑み。
 と、白い風が吹き抜け、瞬時にして白の守護神の姿が消えた。
 ふと祭壇を見上げると、女神の像の手の上では、『白の涙』が淡い光を放っていた。



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パーシィ登場でした。
パーシィの絵も描きたいです☆
銀髪ですよ銀髪♪(銀髪好きらしい)
第五章 2の一場面のパロ(謎)は、さらなる過去路の2002/11/30に載ってます☆
よければ反転させてみて下さいませ。
…ギャグですよ?