渡り廊下ほてほて歩いて体育館の前まで来たけど。別に何ともないかもしんない。 あたしの見マチガイっポイかも。
 体育館の周りぐるり見てみりゃいいんだろーけど、 屋根のついてないトコに出る気はさらさらないし。けど、 戻ろっかなとかって思って体育館に背中向けたら、いきなし後ろでガタンとかっておっきな音がした。 雨と風の音すごいのに。
 ホントいきなしだったから、あたし一瞬ビクッてなった。だってやっぱコワいし。 雨の音と風の音すごいし。けど何だろとか思うのには勝てなくて、ビクつきながら後ろ見た。
 ……?
 別に変わったトコはやっぱしないかも。別んトコで何か落ちたかな。……って、あれ?  何か体育館の戸、ちょっと開いてるっポイ? 運動部、閉め忘れたかな。ま、あたし関係ナイけど。
 ……。いーや、どーせヒマだし。
 ぺたぺたって歩いてって、体育館の戸に手をかけた。んで、閉めよとかって思った時、 中でガタッて音がした。
 何なに? 中にヒト、いるの?
 いたら閉めちゃマズイかなって思って、ちょっと考えてから体育館の戸、ぎぎぎぃって開けた。
 うわ、中まっ暗だし。電気もついてナイし。…ヒト、いそーにナイかも。
「誰かいるー?」
 外の音に負けないくらいおっきい声出したけど、返事全然ナイし。 …何かが落ちただけだったかな。
 そう思った時、雷がピカって光った。
 ―――――――――― ?
 ほんの、ほんの一瞬だったけど。体育館の中、何かの影が見えた。
 …何かの、おっきな影。まるで――――――みたいな。
 間が空いてゴロゴロっておっきい音。体に、響いて。
「お前……人間か?」
 突然の訊[き]くっていうより確かめるみたいな低い声。ふいにまっ暗な中から聞こえて。
 夜の嵐の、ぼんやりした遠い蛍光灯の、そんな中に出て来たのは、背の高いずぶぬれのひと。
 ……たぶん、絶対、心臓一瞬止まってた。
 夜の中の強い瞳[め]。
 まっすぐにあたし見てる。
 風びうびう吹いてて、窓ガタガタ鳴ってて、雨だばだば降ってるのに。
 もいっかい動き出した心臓の音どくん、どくんって聞こえて。
「…カゼひくよ?」
 何にも考えられなかったはずなのに、気がついたら言ってタオル差し出してた。
 きつい瞳[め]してたのに、すんごい来るな来るなオーラ出してたのに、 突き刺さるみたいな空気背負ってたのに。なのに、あたしがタオル差し出したら、 えっ? ってあっけにとられたみたいな表情[かお]して。 そしたらいっぺんに空気がやわらかくなった。外はごうごういってるのに。
 何かそれがおかしくて、あたし、くすくす笑っちゃった。
 そしたらまた、むっとした顔して。でも、それも何かかわいいなって思った。
「ゴメン。でも、ちゃんと拭[ふ]かないとカゼひくよ?」
「……お前、人か?」
 いきなり何言ってんだろ? とか思ったけど、こんな嵐ん中、夜の学校にいるのって、 考えたら普通じゃないし。
「あたりまえ。宇宙人なんかじゃないよ。あたし」
 言ったら、あからさまにほっとして。変なの。何か、怖がってる子猫みたい。 その髪の先からぽたりってしずく落ちて。
 はいってタオル渡したら、何か困った子供みたいな顔した。



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