ちょっと寒かったからとりあえず体育館入って。
 電気なんかつけたら人がいるってバレバレだから、まっ暗なまんま、 すみに出しっ放しになってたマットの上に二人して座った。
 まっ暗って言っても雷ピカピカ光るし、外灯ついてるから暗いけど薄ぼんやりっていう感じ。
「…お前、どうしてこんな所にいるんだ? ここは確か、 夜になったら人間はいなくなる場所のはずだろう?」
 頭ゴシゴシって拭[ふ]きながらさっきよりやさしい声で訊[き]いて。
「えー? 雷鳴ってて帰れないもん」
 そー言えば、何であたしこんなひとと一緒にいるかな? 初めて会ったひとなのに。 全然しらないひとなのに。
「そうか。それなら、別の場所で雨宿りしてろ。俺にかまうな」
 冷たい声。
「ヤだ。あたしここにいる」
 何でかわかんないけど、ここにいたくて。言ったら何か、空気がピッて冷たくなった。
「他の所に行け」
 命令口調で言われて。それがすごくムカついて。
「ヤだ。あたしここにいるもん」
 言ったらため息聞こえて。それからすぐ、バサバサッておっきな音がした。
「何?」
 あたしの横の窓、ピカッて光って。
 ……おっきな影が、見えた。
「…何?」
 逆っかわの窓から、光、射して。
「あ……」
 羽が、見えた。
 一瞬だったけど、でも見えた。片方だけの、背中から生えた、羽。
 …それと、あたしにらんでる、瞳[め]。
「俺にかまうな」
 きっぱりはっきり言われて。
 怖がらせるみたいにばさばさって音立てて。
 ……けど。
「ヤだ」
 あたしもきっぱりはっきり言った。
 ……雷、ゴロゴロ鳴って。
「あたしはここにいる」
 言ったらあからさまにため息ついて。
「勝手にしろ」
 言ってごろんて寝っころがった。
 あ。…羽、大丈夫なのかな。
 そんなコト考えてるバアイじゃないとかわかってたけど。
「……ねえ」
「ああ?」
 不機嫌な声。
「羽、折れたりしないの?」
 雷が、ピカッて光った。
「……」
 ちょっと経ってゴロゴロって響いて。
「…見えてなかったワケじゃないんだな」
 ぽつり言った。
「見えたよ。一瞬だけだけど」
 夜の中、うかびあがるみたいな、半透明なキレイな羽。
 答えたら、いきなり「よっ」て反動つけて起き上がって、あたしの方見て言った。
「お前。…本当に飛天[ひてん]じゃないんだよな」
「ヒテン?」
「…何でもない。忘れてくれ」
 訊いたら言って、そっぽ向いた。
「ねー何なに? それ。教えてよ」
「お前には関係のない事だ」
「何よ。教えてくれたっていーじゃない。ケチ」
 むくれて言ったら、「ケチ」って言葉にピクリって反応した。
「ねー教えてよ。ねーねーねーってば」
 ねだっても、そっぽ向いて何にも言わないまんま。ちょっとムカつくかも。
「ケチ。減るもんでもないのに、教えてくれたっていいじゃん。このケチケチ魔人っ」
 言ったらがばって振り向いて。
「俺はケチじゃねぇっっ !!」
 いきなり大声出したから、ビクッてなった。…何よ。そんなに怒んなくたっていーじゃない。
 しばらく、雨と風の音だけ鳴って。
「飛天は」
 仕方ないなって感じでぼそっと呟[つぶや]いた。
「え?」
「飛天は『天[ソラ]を飛ぶ者』。人間とは別の生物だ。背中に、透明に近い翼を持つ一族」
 背中に、つばさ?
「それじゃあなたもヒテン……なの?」
 訊いたら苦笑して、「一応な」って答えた。
「お前、本当に別の場所で雨宿りしてた方がいいぞ。俺と一緒にいたら……」
 自虐的[じぎゃくてき]に鼻で笑って言った。
「下手したら巻き添えで殺されるかもしれないからな」
 雷が外で、ゴロゴロって鳴いた。



BACK   NEXT

TOP   CLOSE   NOVELS   MAISETSU