何か、息が苦しい感じ。
「…でも、じゃあ。そのバランスがとれればいいんでしょ? 友達とか、 他の片っぽだけのひとっていなかったの?」
 何とか声出して。頑張って言ったのに、鼻でフッて笑って。
 アタマ、下げたのがわかった。
「…俺、ひとりだったから」
 体育館。雨と風の音、ウルサい。
 …なのに声、やけにはっきり聞こえて。
「生まれてすぐ捨てられたらしいしな」
 他の奴らとは違うからってな。
『ダメねぇ、あーちゃんは。こんな簡単な事もできないなんて』
 誰だったっけ、言われたの。聞いてたら、何だか急に思い出した。
 できた人から帰ってもいいって言われたプリント。
 あたしだけ、最後までできなくて、できなくて、できなくて。
 どんどん少なくなってく、人。
 手のひらがじんわり汗ばんで。心臓がどきどきなって、世界が震える感じ。
 とりのこされて。
 ひとり。
「ひとりはキライ」
 知らないうちに出た声は、雷の音とかぶってて。
「…何?」
「ううん。何でもない」
 聞こえてなかったみたいで、ちょっとほっとする。
 …あれ? でも。
「ねぇ」
「ん?」
「じゃあ、何で今、生きてんの?」
 赤ちゃんの時に捨てられたんなら、何で?
「収容所が、ある」
 サめたみたいな、声。
 命は命だと。大層に言って閉じ込めて。
「……だから、逃げてきたの?」
 春の冷たい嵐の中を。
「…ああ。」
 強くて、低い、声。でも、そのあとふぅって、息吐いて。
「アイツが逃がしてくれたようなもんだけどな」
 それが、ちょっとやさしい声みたいだったから。
「…誰?」
「秘密」
 もったいぶったみたいな言い方。何か面白くないかも。
 知らないヒトの話してさ。
 知らないひと?
 ……じゃあ。
「ひとりじゃないじゃん」
 言ったら、空気が何か震えて。
「……え?」
 雷が、近くで鳴った。
「だって、逃がしてくれたんでしょ? そんなひとがいるなら、ひとりじゃないじゃん」
「…あ。」
 今、気がついたみたいな声出して。
「なら大丈夫だよ。ひとりじゃないなら、大丈夫。殺されたりとかしないって、たぶん」
「……そ、かな?」
「ん、そうだって、絶対」
「………さんきゅ」
 小さく声、聞こえて。
 あたしに何ができたのかわかんないけど、でも言われたのが何だか嬉しくて。
「どーいたしまして」
 言って、目を閉じたのは覚えてる。



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