ごそって、何かが動いたみたいな感じがして、あたしは目を開けた。
 最初に見えたのは、高い窓から入ってくる、うすぼんやりした光。うー、ちょっと寒いかも。
「起きたか」
 すぐそばで聞こえたのは……
「 !?」
 びっくりして体起こしたら、隣には知らないひとがいた。
 うーとえーと??? ………………。
 昨日あたし、あのまんま寝てたとか?
「晴れてるみたいだな」
 立ち上がってそう言うと、体育館の戸、開けた。入ってくる、朝の光。
 時計を見て目をこする。…見マチガイかと思ったけど。
「うわ早ッ。めちゃくちゃ早いじゃん」
 こんな時間に起きるなんてないよ? あたし。でも、何でか目はさえてる。
「散歩にでも行くか」
 言って差し出されたあたしよりおっきな手、見て。あたしは、それを柄にもなく素直に握った。





 学校のすぐ側にある海岸まで降りてく。潮の匂いがキツくて。んでも、昨日の嵐が嘘みたいに、 空はすんごくよく晴れてた。
「ねぇ」
「ん?」
 つないだまんまの手を揺らして、海岸を歩いて。
「これから、どーすんの?」
「ん―――?」
 すっごいアイマイな返事。
「ねぇってば」
「さァ、どうするかな?」
 遠くを見て、はぐらかす。
「『逃げてる』って言ってたじゃん」
 言うけど、それには応えてくれなくて。ただ、笑顔なんだけど何かサビシイみたいな顔、してた。
 何でかそんな顔させたくなくて、一歩進んであたしは言った。
「ねぇ、羽見せてよ」
 だって昨日見たのって、雷の光でだったから、よく見えなかったし。
 言ったら、驚いたみたいな顔してたけど、ふんわり笑って、大きな手であたしの頭をなでた。
「見せてくれんの? くれないの?」
 ちょっと恥ずかしくなって、むくれて言うと、すって立ち止まった。
「それじゃ、タオルのお返しに少しだけ、な」
 あたしから2、3歩離れて目を閉じて。
 うわ。
 ふわりって勢いよく出てきた羽は、大きくて。朝の光にすんごいきれいで。
 でも、あれ?
「ねぇ」
 あたしは目開いたまんま、指さして言った。
「羽、2枚あるよ?」
「へ?」
 答えた声は間抜けだったけど。
「だから、羽。片っぽだけじゃなくて、2枚あるって」
 言ったら、恐る恐る動かして。
「ね?」
 心底驚いたみたいな、そんな顔で。
「うわ、え !?」
 すごい強い風がいきなり吹いて。目をつむったあたしは、 そのまんま気がついたら抱きしめられてた。
「ちょっ… !? え?」
 慌てるあたしの耳元に、小さく「さんきゅ」ってささやいて。
 ほっぺたにふれた、熱は。
 びっくりして顔見たら、幸せみたく、けどどこか辛そうに微笑んで。
 羽が動いて、風が来るのが、見えた。
 吹き飛ばされそうでぎゅって目を閉じたら、急に包まれてた感覚がなくなって。
 目を開けたら、あのひとは消えてた。
 振り返っても、ぐるり見回してもどこにもいなくて。
「…何?」
 まるではじめっから、ここにはいなかったみたいで。
 昨日がすごい嵐だったことまで全部消されたみたいで。
 左のほっぺには、まだ感覚が残ってるのに。
 あたしは走って学校まで戻って、体育館の戸を開けた。
 出しっ放しになってるマット。でも、誰もいなくって。
 太陽の光だけ、窓から射し込んでて。
 何か、胸がぎゅって締めつけられるみたいな感じがして。
 あたしは。
 わかんなかったけど、わかんないまま。何かにつき動かされるみたいに、ぼろぼろ泣いた。



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