「ようこそ月へ!! Welcome To The Moon !!」

 どこでも同じような歓迎の看板の下をくぐってのんびりと進む。
 迎えてくれるのは二頭身のウサギ型キャラクター、R・C[アール・シー]。
 二頭身だけあって、アタマでかいのよねぇ。
 AIプログラムが内蔵されてて、クライアントの要求を聞いてちょこまかと動き回るのは、 可愛いとは思うけどね。
 『レンタルシップ・月支店』に連絡して、船の点検をしてもらってるから、ドライブは今日は無理。 ま、ここまでがドライブだって言ったらそうなんだけど。
 はっぴぃを抱えて、足を向けるのは『アミューズメントパーク・マーキュリー』。
 「どうして月なのに水星なのよ」って思わなくはないけど、ここで一番大きな娯楽施設。
 持ってきた水着引っ張り出して、温水プールではっぴぃと泳ぐ。
 動物禁制じゃないから、ここのプールは好き。
 ゆたりぷかぷか浮かんで。気が向いたらクロールに平泳ぎ。バタフライだってできるんだから。 はっぴぃも、ぱしゃぱしゃ水をかき分けて犬かきで進む。


 ちょっと休憩。とかってプールサイドでくつろいでたら、やって来たのは赤髪のお兄さん。
「こんにちは。ねぇ、さわってもいいかな?」
 にっこり無邪気な笑顔でたずねるのははっぴぃのこと。
 一瞬ナンパかと気ぃ張っちゃったけど、そうじゃないみたいで肩の力を抜く。
 はっぴぃを見てみると、まんざらでもないみたい。
「いいわよ。どうぞ」
 そう言うと、お兄さんは「ありがとう」って言って、 本当に嬉[うれ]しそうにはっぴぃを抱き上げた。はっぴぃもお兄さんにじゃれついて遊ぶ。
 はっぴぃが気に入るなんて、よっぽど犬ズキなのね、お兄さん。
「ねぇ、このコの名前、なんていうの?」
「『はっぴぃ』よ。シアワセな子犬」
 笑顔のまんまで訊[き]かれて、私もつられて笑顔で答えてた。
「ふぅん。はっぴぃクンか」
 名前を呼ばれて、はっぴぃは鼻の頭をぺろりとなめる。
 しっぽはぶんぶんちぎれんばかり。
「よーしよしよし
 遊んでもらえて、はっぴぃはかなりご機嫌な様子。
「ねぇ、ここに住んでる…んじゃないよね?」
 お兄さんははっぴぃを抱えたまんま、隣のイスに腰かけて、私を見上げるようにして訊いた。
 何だかお兄さんも犬みたいね。
「ん、そうよ。ここには旅行に来てるだけだから」
 くすり笑って答えると、そっか、と肩を落とした様子。
「俺、火星に住んでるんだけど、ここには仕事でちょくちょく来るから、 ここに住んでるんならはっぴぃクンにまた会えるかと思ったんだけどなぁ」
 ふーん、火星ねぇ…って火星?
「ね、ひょっとしてお兄さん、船[シップ]持ってるの?」
「へ? いや普通に持ってるけど?」
「ねぇねぇ、それ、動かさせてくれない? ドライブしに来たら、借りた船、ドックに入っちゃって」
「いや、いきなりそんな事言われても…」
 んー、まぁそうよねぇ。いきなり言われても困る、よね。
 ちょっと考えて、頭をよぎったモノに、口の端を持ち上げた。
「ねぇ、カードゲーム知ってる?」
「へっ?」
 切り替わった話に面食らうお兄さん。私はかまわず、言葉を続けた。
「地球のね、アンティーク・ショップで見つけたの。トランプっていうんだけど、 やってみると面白いのよね」
「?」
「勝負しよう
 言って、にっこりと笑んでやった。



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