ゆらゆら、ゆらゆら、ゆっくり揺れる。
 まるで人工海で泳いでるみたい。
 キーノの船はゆったり揺れて、宇宙[うみ]をすいと進んでく。
「っくぅっっ。あそこでストレート来るかぁ?」
 隣のシートで、はっぴぃ抱きながらぼやいてるのがスクェラーゼ・キーノ。 火星在住の赤髪のお兄さん。
「運も勝負の内なのよ? うだうだ言ってないで、こんな美人とのドライブなんだから、 もっと楽しんでよね」
 言って操縦桿[そうじゅうかん]を左に向ける。
 それにつれて、機体もゆっくり左に曲がる。
「あッ !!」
 目に入ったのは箒星[ほうきぼし]。しっぽをなびかせながら、きらめいて通り過ぎる。
 それを見た瞬間、私は思わずアクセルを全開にしていた。
「おいッ !?」
 ぐんぐん上がるスピード。
「ちょっ !? アイェラ、船に無茶させないでくれッ !!」
 キーノが騒ぎ立てるけど、無視してぐんぐん箒星を追いかけた。
 けど旧型船と彗星じゃスピードが違いすぎる。すぐに箒星は私の視界から消えていった。
 あきらめてスピードを徐々に下げる。ちらりと横を見ると、キーノが胸をなで下ろしていた。
「アイェラって、勝負といい、操縦といい、むちゃくちゃするよねぇ」
 どこかげんなりした様子。はっぴぃがクゥンと鳴いて、鼻先をなめる。
「いーじゃない。追いかけたかったんだから」
 つんとすまして答えてみせる。いいじゃないよね、ちょっとぐらい。
「そんなにスリルが欲しいんならさ、ドライブじゃなくてバンジーやろうよ、バンジー」
「バンジー?」
「落ちてくんだ。宇宙[そら]に」
 面白いんだ、とキーノはにっこり笑顔で言った。



「ではご案内致します〜♪」
 R・Cに案内されて、やって来たのは広いホール。
「こちらを片足に装着して下さいね〜♪」
 渡されたロープつきのリングを足首にはめる。サーモグラフィーが内蔵してあるのか、 リングは縮んで足首にぴったりの大きさに変形した。
 はっぴぃも後ろ足にリングがはめられて、不思議そうに匂いをかいでる。
「これ、何の意味があるの?」
「これがなくっちゃ、落ちてくばっかだろう? 安全装置なんだ。合図があったら、 思いっきりグランドを蹴[け]るんだよ」
 キーノに訊[き]くと、そう答えて嬉しそうな顔を見せた。
「装着されましたね? では存分にお楽しみ下さい〜♪ 1、2、バンジーッ !!」
 R・Cの掛け声に合わせて、私は言われた通り地面を蹴った。…って、えぇ !?
 すん、と重力がなくなって、宇宙[そら]に向かって落ちて落ちて落ちて…

 カクンッ

 足を引っ張られる衝撃で、落下が止まる。
 そのまま今度はグランドに衝突する !?

 ふにょんっ♪

 激突すると思って丸まった体に当たったのは、柔らかなクッションの感覚。
 反動で宙に放り出される。
 え? え? えぇッ !?
 何度かグランドで弾んだ後、どうにか足をつけた私に、キーノがウインクをよこした。
「ね? 面白いだろう?」
「キャン。クゥゥン」
 腕の中のはっぴぃも楽しげな様子。
 楽しい…っていうか、びっくりしたわよ。ホント。…でもま、
「ハまるかもね、これ」
 口元に笑みが浮かんでたのは内緒にしといてあげるわ。



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